hunamizawa’s blog

無い物は作りたい人のメモ帳

中華の格安Li-ionソーラー充電モジュール CN3791 その1

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ESP8266 を使って、デジタル百葉箱を作りたいな~と思っていて、どうやって電源を確保しようか検討中。

太陽電池+リチウムイオン二次電池で電源を賄う可能性を探るため、aliexpress を漁って見つけたのが、この充電モジュール(送料込380円)。

www.aliexpress.com

中国 Consonance Electronic(如韵电子)社の CN3791 という Li-ion 充電制御ICを使用したモジュールで、この値段で MPPT(最大電力点追従)制御もついているらしい。

で、CN3791 についてはネット上でも言及が少なく、日本語の情報は見当たらない。そこでデータシートを読みながら、このモジュールの動作について解析してみる。

データシートはこちら:http://www.consonance-elec.com/pdf/datasheet/DSE-CN3791.pdf

MPPTとは

MPPT(最大電力点追従)は、太陽電池の運転効率を最大限に引き出すための技術で、詳しい説明は各自ググるか、以下のリンクを参照してほしい。

MPPT方式 | 太陽光発電の仕組み

太陽電池MPPT制御 電圧制御MPPT回路の自作 - 日々の記録

2番目の記事の補足をすると、普通の降圧 DC/DC を太陽電池入力で使うと

  1. 雲が出て太陽電池の発電電力が低下する
  2. DC/DC の入力電圧が下がると出力電圧も下がる
  3. デューティ比を上げて(電圧が下がった分、代わりに電流をたくさん吸って)出力電力を保とうとする
  4. 入力電流が増加して太陽電池電圧がさらに下がる
  5. 3.に戻る
  6. 最終的にデューティ比が 100% になり、太陽電池電圧=蓄電池電圧になる

という負のスパイラルに陥ってしまうので、太陽電池を電源とする DC/DC では「入力電力が減少したら出力を絞る」制御、つまり MPPT が必要になる。

CN3791 の主な機能(データシートから抜粋)

  • 太陽電池入力対応、MPPT 制御
  • 降圧 DC/DC 方式
  • 充電終止電圧 4.2V±1%(過電圧保護付き)
  • 最大充電電流 4A(電流検出抵抗の値により変更可能)

モジュールの回路

回路構成はオーソドックスな 降圧 DC/DC。ほぼ typical application circuit と一緒だが、前段に回路が追加されている点が異なる。

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データシートより抜粋、赤字および青枠内は筆者追記

追加された回路

CN3791 | Tech Obsessed

上の記事の受け売りをすると、この部分は、太陽電池の逆接続からの保護と、バッテリーから太陽電池への逆流防止を兼ねている。Pch-MOSFET を用いた逆接続防止回路は定番で、解説は他に譲る。

ラジオペンチ Pch MOSFETによるハイサイド電源スイッチと逆接防止回路

パワーMOS FETで逆接続による回路焼損防止回路: エアーバリアブル ブログ

CN3791 の CHRG ピンはオープンドレイン出力で、充電中は Low (= GND) にプルダウンされ、D4 が点灯する。この時、FET のゲートも 20kΩ の抵抗を介して GND にプルダウンされ、FET が完全に導通する。

充電が完了すると CHRG ピンはハイインピーダンスになり、FET のゲートは 320kΩ の抵抗によりソース電圧にプルアップされ、FET がオフになる。この場合でも、順方向への電流はボディダイオードを介して流れるので、CN3791 は太陽電池から電力供給を受けられる。*1

「逆接続を防止する」ということは「逆向きの電流を通さない」、つまりバッテリーから太陽電池への逆流を防くことにもなる。このモジュールでは少しでも損失を減らすため D1 が省略されているので、この回路は必須となる。*2

 最大充電電流の設定

バッテリーの最大充電電流 I_{CH} は、電流検出抵抗 R_{CS} に依存し、次式で決定される。

{\displaystyle I_{CH} = \frac{120\,\mathrm{mV}}{I_{CS}}}

このモジュールでは 40mΩ が実装されているので、最大充電電流は 0.12V ÷ 0.040Ω = 3.0A となる。

太陽電池電圧の設定

MPPT の方式は「山登り法」などいろいろあるが、CN3791 で採用しているのはごく単純なものである。最大電力点 V_{MPPT} は周囲の環境(特に温度)により変化するが、そのへんは妥協して「V_{MPPT}は〇〇V」と決め打ちして、その電圧から大きく外れないようにデューティ比を制御するだけである。

具体的には、MPPT ピンの電圧が 1.205 V (Typ.)*3 付近になるように充電電流を増減させる。MPPT ピンには、太陽電池からの入力を抵抗 R3 と R4 で分圧して入れる。R3 と R4 の値は次式で決定する。

{\displaystyle V_{MPPT} = 1.205 \left( 1+\frac{\mathrm{R3}}{\mathrm{R4}} \right)}

このモジュールは R3 = 180kΩ、R4 = 20kΩ なので、V_{MPPT} = 12.05\,\mathrm{V}となる。R3 と R4 の分圧比を変えることで、6V や 9V の太陽電池用のモジュールを製造することができ、実際このモジュールは 9V 用と 12V 用がラインナップされている。

充電開始条件

以下の条件がすべて満たされると、CN3791 は充電動作を開始する。

  • 低電圧リセットが解除されている i.e. V_{CC} \gt V_{UVLO} \left(V_{UVLO}=3.8\,\mathrm{V\,typ.}\right)
  • スリープモードから復帰している i.e. V_{CC}-V_{BAT} \gt V_{SLPR} \left(V_{SLPR}=0.32\,\mathrm{V\,typ.}\right)
  • MPPT ピンの電圧が 1.23V 以上*4*5

充電動作

充電方式は、ごく普通の CC/CV である。V_{BAT} が充電終止電圧の 66.5% = 2.8V 以下の領域では予備充電動作に入り、充電電流が I_{CH} の 17.5% (Typ.) に制限される。

充電停止条件

CV 動作に入ったのち、充電電流が I_{CH} の 16% に減少した時点で充電完了と判断し、DONE ピンが Low に、CHRG ピンがハイインピーダンスになる。この状態からバッテリーが放電し、電圧が充電終止電圧の 95.5% ≒ 4.0V に低下すると、充電が再開される。

 

長くなったので、次回は実際の動作を観察してみたいと思う。

*1:損失は FET オンの時よりも大きくなるが、充電完了後の CN3791 自体の消費電流は 1mA くらいなので無視できる。

*2:D1 を省略するとバッテリーから CN3791 への逆流を止められなくなるが、データシートには「V_{BAT}=4.2\mathrm{V} のとき CN3791 の消費電流は 30μA に過ぎないので、これを無視できるなら D1 は省略可能」と記述されている。

*3:1.18V (Min.) - 1.23V (Max.)

*4:データシートをコピペしたが、MPPT ピン電圧の保証値が 1.23V (Max.) だからこう書いてあるのだろう。筆者が買ったモジュールでは1.2V くらいから充電された。

*5:この条件が偽でも、上2つの条件が満たされると CHRG ピンは Low になる。